大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成3年(く)202号 決定 1992年11月19日

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、弁護人上原茂行作成の即時抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は要するに、原決定は、大阪地方裁判所平成二年(わ)第四二五六号詐欺、詐欺幇助被告事件記録中の各証拠は、刑訴法四三五条六号にいわゆる無罪を言渡し、又はより軽い罪を認めるべき明らかな証拠にあたる、しかし、同条号にいわゆる新たに発見された証拠とは、基本的には裁判所にとって新規性を備えていることで足りると解するとしても、請求人において不本意にも明らかになった前記偽装の事情に基づいてなされた同人側からの再審請求を許すことには相当の躊躇を覚えざるをえない、として請求を棄却したが、請求人側の事情によって請求を棄却することは、罪を犯していないにもかかわらず、誤って処罰された場合に一定の要件のもとに是正しようとする再審制度の趣旨に反する、というのである。

そこで検討するのに、原決定も判示するとおり、確定略式命令の内容は、請求人は、昭和六一年五月二九日、業務として普通乗用自動車を運転し、A運転の普通乗用自動車に追従して進行中、過失により自車を信号待ちのため停止していた同車に追突させ、右A、同車に同乗のB及びCに傷害を負わせたというものであり、所論指摘の事件記録中の証拠によれば、右交通事故は、D、右A及びBが共謀の上、交通事故を偽装して右Aらが負傷したように装い、請求人締結にかかる自賠責保険から保険金を騙取しようと企て、右Dが請求人所有の普通乗用自動車を運転し、同車を右Aが運転し右B外一名が同乗する普通乗用自動車に故意に追突させ、これにより右A及びBが負傷したとして保険金を騙取した際、請求人は自己所有の自動車をDに貸与し、これに同乗して同人に運転させて追突させたのに、Dでなく請求人が運転中に過失により追突したなどと警察官に申告し、A及びBによる保険金請求に協力するなどして幇助したことが認められ(なお、請求人につき、同旨の事実により詐欺幇助として懲役一年二月、二年間執行猶予の有罪判決が確定している。)、右略式命令が認めた請求人が自動車を運転していたことが否定され、かつ、右略式命令が認めた傷害の発生にも疑問があるから、前記証拠は刑訴法四三五条六号にいう無罪を言渡し、又はより軽い罪を認めるべき明らかな証拠にあたる。

ところで、請求人は、右のような事情を知りながら、これを秘し、本犯らの保険金詐欺の意図が露顕するのを防ぎ、これを遂行するのに加担し、事実に反し、自ら自動車を運転し過失により人身事故を起こしたと虚偽の申告をして、略式命令を受けたものであるから、このような請求人からの再審請求を認めることは、衡平の精神、禁反言の原則等に反し、刑事訴訟の当事者主義的構造に照らし許されないというべきである。原決定の説示は、必ずしも明快とはいえないが、結論において当裁判所の見解と合致するものであり、本件再審請求を棄却した原決定は相当である。

以上のとおり本件抗告は理由がないから、刑訴法四二六条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官重富純和 裁判官川上美明 裁判官久米喜三郎)

《参考・原決定》

主文

本件再審請求を棄却する。

理由

一 本件再審請求の趣旨及び理由は、弁護人上原茂行作成の再審請求書記載のとおりであるから、これを引用する。

二 当裁判所の判断

1 本件記録によれば、請求人は、昭和六一年七月二九日業務上過失傷害の事実により略式命令を受け、右命令は同年八月一三日確定したことが明らかであり、同命令において認めた犯罪事実は、請求人が普通乗用自動車を運転しA運転の普通乗用自動車に追従して進行中、過失により自車を信号待ちのため停止していた同車に追突させ、右A、同車に同乗のB及びCに外傷性頚部症候群などの各傷害を負わせたというものである。

2 平成二年(わ)第四二五六号詐欺、詐欺幇助被告事件の一件記録中の各証拠によれば、右交通事故は、請求人がD、右A及びBと共謀の上、交通事故を偽装して右Aらが負傷したように装い、請求人が締結している自賠責保険から保険金を騙取しようと企て、自己の所有する普通乗用自動車を右Dに貸与して運転させ、自らも同乗し、同人をして同車を右Aが運転し右B外一名が同乗する普通乗用自動車に故意に追突させたというものであって、右命令の犯罪事実の各被害者において右摘示の傷害の結果が発生したことには相当な疑問があるといわねばならない。

従って、請求人にとって、右Aらに対する業務上過失傷害罪より法定刑の軽い暴行罪の幇助が成立するか、或いは右各被害者の承諾に基づく行為であるから暴行罪の成立が阻却されると解する余地があり、右各証拠は、刑訴法四三五条六号にいわゆる「無罪を言渡し、又はより軽い罪を認めるべき明らかな証拠」に当るものということができる。

しかし、右同法同条同号にいわゆる「あらたに発見」された証拠とは、基本的には裁判所にとって新規性を備えていることで足りると解するとしても、請求人において不本意にも明らかになった前記偽装の事情に基づいてなされた同人側からの再審の請求を許すことには相当の躊躇を覚えざるをえない。

よって、本件再審の請求は理由がないから、同法四四七条一項によりこれを棄却することとする。

大阪簡易裁判所

(裁判官<省略>)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例